エド・ヴァン・デル・エルスケン

僕らの青春。それは、にっぽんではじまった。

偶然にも最悪な少年』グ スーヨン著(2003/8.8発行 ハルキ文庫)

P26 
 切符を買ったらまた階段を上る。下りたり上ったりやたらと忙しい。電車に乗る前に完璧に疲れてしまう。
 デブや年寄りや身障者の人達の事を日本はいったいどう考えてるんだ?
 外に出るなってことかい?
 やっぱし邪魔だもんね。見た目は美しく無いし。社会のゴミだからね。
 当たり。
 健康なフツーの人(デキル人)の事しか考えられてない世の中なんて最高だ。
(略)
P29
 今生き残ってるって事は、ボク達は人殺しの子孫なんじゃん。

エド・ヴァン・デル・エルスケンのにっぽんの写真を見ていると、この文章を思い出しました。
その写真集の名前は
『エルスケンニッポンだった : 1959・1960』
エド・ヴァン・デル・エルスケン著 ; 中野恵津子訳)
です。
 この写真集を見ていると、当時の日本の日常の中の自由の生臭さが目に付きます。エルスケンの毒蜘蛛のように奇妙なものを捕らえるシャッターがおろされる瞬間、日常の人々の姿が、心の奥の深い闇の真実を捕らえられてしまった獲物のように、黒と灰色と白の世界に、ぶれたり揺れたり流れたりはっきりとぼんやりと写る。
日本には、闇を堂々とさらけ出してそれに属して依存して共存して孤独も曝け出して見せ付けていた時代が色濃くあって、それをエルスケンという世界中を旅をしながら写真を撮っていた写真家にカメラという武器で狩り捕られた時代があった。
 今はどうだ?