写真展の

 長島有里枝の写真展『candy horror』を見に、SCAI THE BATHOUSEという上野の東芸大の近くにあるギャラリーに行って来ました。
 SCAI〜は、白い壁が印象的な建物で、正面に来ると、銭湯屋の入り口があらわれます。中は銭湯そのままではなく、正方形に近い空間が広がっています。ここは、まだ有名じゃなかった奈良美智とかが、作品を展示していたとかで、そこにある本棚のファイルの中に、彼の作品の紹介がありました。
 早速入ると、長島有里枝の作品が目に映ります。白い壁に長島さんの写真の色が冷えた水がのどに流れ込むように流れていきます。心地よい。流れの中でその作品を見ることが出来ますが、よく見ると、大きさもその作品も一つ一つ違う。そのごく当たり前の日常の一場面が、流れ込んできては、何も語らないし、語る様子もないのに、何かを語るかのように置かれている。そのばらばらな作品が織りなす世界が、ただ広がる。
 始めの写真は、白い壁と光がまぶしい中のすこしけだるそうな背中の写真。その横に、夕焼けの電信柱の遠くに飛ぶ小さい黒い鳥。つながるようで、正反対な写真。
 ここで、SCAI〜のHPにのっていた案内を引用。
 

本展は長島有里枝の4年ぶりの本格個展となります。2004年12月刊行の新作写真集『not six』では全編夫のポートレイトを発表、密度の濃い天才写真家ぶりを発揮した彼女の今回の個展は一転してアーティスト・長島有里枝を十分に堪能できる内容となっています。

作品はこの4年間の間に撮りためてきた新作約30点。 スケール感のある風景写真から身近な些末なものへの親密なまなざしまで、それぞれ異なった距離感をもった一連の写真を展覧会全体として俯瞰した時、鑑賞者は何か胸騒ぎがするような物語性を背後に感じることとなります。

タイトルの"Candy Horror"が象徴するものは、人と関わりながら生きていく個人の日常のなかに潜むある種の恐怖の瞬間のようなものかもしれません。他人との距離感をはかりながら私たちは家庭や社会の時間を過ごしてゆきます。しかし、他者との距離感が何かをきっかけとして突然変化したり、あるいは平凡な毎日に隠れて見えなかったものが突然形をもって現れた時、それは自己のアイデンティティをも揺るがすような暴力をともなって既存の意識を凌賀してしまうかもしれません。こうした幾分映画的な試みについて長島有里枝は時にユーモアをまじえながらしかし一切の感傷を排除した強い視線のもとに取り組んでいます。

アーティストとしてのキャリアをスタートした当初から長島有里枝が変わらずに扱ってきたのは家族や身近な存在と自己との関係性でした。本展ではそこにある種の緊張感を持ち込んで再構成する手法がとられています。
前回の個展ののち母となり、アーティストとしてだけではなく人間としてもさらなる成長を遂げてきた長島有里枝の新境地となる本展にぜひご期待ください。

(SCAI THE BATHHOUSEより→http://www.scaithebathhouse.com/main/03exhibition/data/CandyHorror/ja.html

 二つの違う写真が横同士で並んでいても、すんなり作品が流れていく感覚は、ここにある「物語性」がそうさせているのかもしれません。ただ、ばらばらな感覚はどこかに残っていて、それが日常の中にある自身の深いところにある潜在的な無意識的な、それでいて意識的に作り出している「物語性」と結びついている。「物語」とくくると、簡単に言い表せますが、日常にある映像が繰り広げる、細胞的な活動が、そこに存在しているだけなのかもしれない。